認定から翌年度の実績報告までの1年サイクル
『処遇改善等加算の加算率はどこで決まるか』で扱った加算率(a)(b)の認定は、その年度の手続きの入口にすぎません。
処遇改善等加算は、認定申請から始まり、翌年度の実績報告で完結する1年サイクルの制度です。
根拠は「施設型給付費等に係る処遇改善等加算について」(こ成保296・7文科初第250号通知)です。以下の様式名・提出時期はこの通知に基づきます。
認定時に提出する区分ごとの届出書類
認定申請の書類は区分ごとに異なります。
区分1は、別紙様式1「加算率等認定申請書」と別紙様式2「キャリアパス要件届出書」、資質向上のための計画を示した書類です。
区分2はさらに賃金改善計画書等を追加
区分1の書類に加え、別紙様式4「賃金改善計画書」と別紙様式4別添1「賃金改善明細書」、見込平均利用子ども数の算出方法を示した書類を提出します。
区分3はさらに人数認定の申請書を追加
別紙様式3「加算算定対象人数等認定申請書」と、算定対象人数の算出方法を示した書類を提出します。人数の確認手順は『処遇改善等加算(区分3)は人数A・Bで試算』で扱っています。
前年度から内容に変更がない場合の省略
過年度にキャリアパス要件届出書や賃金改善の誓約書等を提出済みで内容に変更がなければ、当年度は一部書類の提出を省略できる扱いがあります。
賃金改善実績報告書の提出時期(翌年度速やかに)
処遇改善等加算の適用を受けた施設は、区分を問わず、加算当年度の翌年度速やかに、別紙様式6「賃金改善実績報告書」を市町村の長へ提出します。
実績報告書には、加算要件の適否のほか、職員ごとの賃金水準や賃金改善等実績額を示す明細書(別紙様式6別添1)を添付します。
処遇改善等加算の区分2・3の適用を受けた施設は、賃金の改善に係る収入・支出を明らかにした帳簿と証拠書類を、実績報告後5年間保管する義務があります。市町村から提出を求められた場合は応じる必要があります。
実績が見込みを下回った場合の扱い(返還ではなく追加支払い)
実績が加算の見込額を下回っただけの場合、通知が定めるのは行政への返還ではなく、施設側から職員への追加支払いです。
「加算による改善等見込総額」が「加算見込額」を下回っていた場合、その全額を速やかに職員の賃金として支払うことが求められます。
加算当年度が終わった後、賃金の実績総額が基準となる賃金総額を下回っていた場合も同様です。
翌年度内に、速やかにその差額の全額を一時金等により支払い、職員の賃金の改善に充てることが定められています。
「下回った=加算を返す」ではない
実績が見込みを下回った場合の措置は、市町村への返還金の支払いではなく、施設から職員への追加の賃金支払いです。この点を取り違えると、資金繰りの見通しを誤ります。
実績報告の前に、加算による改善等見込総額と実際の賃金改善額を照合し、不足が見込まれる場合は翌年度の一時金支払いに充てる原資を確保しておく。
見込みと実績の比較で除く賃金上昇要因(加算以外)
実績報告で使う2つの賃金総額(加算当年度の見込み・基準年度の実績)は、加算そのものによらない賃金の伸びを取り除いてから比較します。
通知は、この取り除く対象として「定期昇給相当額」「人件費改定相当分」「施設独自の改善額」の3つを個別に定義しています。
定期昇給相当額
加算当年度における定期昇給として、賃金規定や定期昇給前後の月の給与から算出した額です。
人件費改定相当分
基準年度の翌年度から加算当年度までの間に生じた、公定価格における人件費の改定分です。
施設独自の改善額
基準年度において、処遇改善等加算の加算額・人件費改定相当分・定期昇給分を超えて、施設が独自に行った賃金改善の金額です。支給額・支給方法(基本給・手当等)・対象者を自治体に示して確認します。
これら3つは、実績報告で比較する2つの賃金総額の算定式にそれぞれ組み込まれています。
加算当年度側の「加算による改善額等の影響を除いた賃金見込総額」は、全職員の賃金見込額の総額から、加算による改善見込総額・定期昇給相当額・人件費改定相当分・前年度に支払うべき残額に対応した支払い賃金額を除いて算定します。
基準年度側の「基準年度における加算額等の影響を除いた賃金総額」は、基準年度の支払賃金の総額から、処遇改善等加算の加算額(法定福利費分を除く)・施設独自の改善額・基準年度の前年度に支払うべき残額に対応した支払い賃金額を除いたうえで、基準年度の翌年度に支払うべき残額に対応した支払い賃金額があればその額を足し戻して算定します。
事業主負担分(社会保険料等)の増加見込額は実額ではなく按分で見込みます。加算当年度側の標準算式は「加算前年度における法定福利費等の事業主負担分の総額」÷「加算前年度における賃金の総額」×「加算当年度の加算による改善見込額」です。基準年度側の按分は分母の構成が異なり、「基準年度における法定福利費等の事業主負担分の総額」÷「基準年度における賃金の総額及び法定福利費等の事業主負担分の総額の合計額」×「基準年度の処遇改善等加算の加算額」で算定します。
人件費改定分の額は、見込時と実績報告時で算式が違う
国家公務員の給与改定に伴う公定価格の人件費の改定分は、その全額を賃金の改善に充てることが処遇改善等加算の要件です。
通知は、この改定分の額を加算当年度と実績報告時の2回算定すると定めています。
実績報告時の原則は、補正予算で人件費が改定されるとき、当初予算に基づく公定価格からの増額分を改定分の額とすることです。補正予算で措置される内容が人件費の改定とは限らないため、具体的な扱いは補正予算の成立時に別途示されます。この方法により難い場合は、次の算式で計算した額とすることができます。
| 時点 | 算式の中身 | 差し引くもの(標準) |
|---|---|---|
| 加算当年度(見込時) | 区分1に係る単価の合計額(認定区分・年齢区分ごとに算定して合算)×改定率×100×見込平均利用子ども数×賃金改善実施期間の月数×0.9(調整率) | 標準として算定した事業主負担分(加算前年度の事業主負担分の総額÷賃金総額と事業主負担分の合計額×上の額)を控除する |
| 実績報告時 | 区分1に係る加算額総額(増額改定又は減額改定を反映させた額)×改定率÷適用を受けた区分1の加算率×0.9(調整率) | 同じ割合で標準として算定した事業主負担分を控除する |
賃金に改定率を掛けるだけでは、改定分の額は出ない
通知の算式は、園の職員の給与ではなく、公定価格の区分1の単価や加算額を土台にしています。見込時は見込平均利用子ども数と月数を掛け、いずれの時点も調整率を掛けたうえで、法定福利費等の事業主負担分を控除します。改定率も、基準年度の翌年度から加算当年度までの人件費の改定分に係る率です。
園の給与表に率を掛けた額で代用せず、市町村が通知する影響額と、通知の算式の各項目を突き合わせる。
通知は、加算当年度内に人件費の改定があった場合、市町村の長が影響額を設置者・事業者へ速やかに通知すると定めています。減額改定でも、賃金や事業主負担分について、年間の減額相当額を超える引き下げが行われないよう指導するとされています。個別の園の差額は、自治体の通知と園の認定内容で決まるため、この記事では計算しません。
賃金総額が基準年度を下回る場合の「特別な事情に係る届出」
区分2・区分3の要件のひとつは、加算当年度の賃金見込総額が基準年度の支払賃金総額を下回らないことです。
通知は、加算による改善額等の影響を除いた加算当年度の賃金見込総額(①)が、基準年度における加算額等の影響を除いた支払賃金総額(②)を下回っていないことを求めています。
ただし①が②を下回る場合でも、必要事項を記載した「特別な事情に係る届出」をしたときは、この要件を満たすものとすることができると通知は定めています。様式は別紙様式7「特別な事情に係る届出書」です。
引き下げが必要な状況
事業の継続を図るために、職員の賃金を引き下げる必要がある状況を記載します。
引き下げの内容
賃金水準の引き下げの内容を記載します。
改善の見込み
経営及び賃金水準の改善の見込みを記載します。
労使の合意
賃金水準を引き下げることについて、適切に労使の合意を得ていること等を記載します。
上の4つは、通知が届出に記載する必要事項として挙げているものです。届出を出せば賃金を下げてよい、という意味ではなく、要件を満たすものとして扱えるかどうかは認定する市町村が確認します。個別の事情への当てはめは、所轄の市町村に相談してください。
なお、通知の本文に「起点賃金水準」という語は見当たらず、比較の基準は「基準年度における加算額等の影響を除いた支払賃金総額」と書かれています。
返還が生じる場合(虚偽・不正のみ)
通知が返還措置を定めているのは、施設・事業者が虚偽又は不正の手段により処遇改善等加算の適用を受けた場合に限られます。
この場合、支給された加算額の全部又は一部について、一般市町村が管轄する施設は都道府県知事が一般市町村の長に対し返還措置を講じるよう求め、指定都市等が管轄する施設は指定都市等の長が設置者・事業者に対して直接返還を命じます。
実績の下振れそのものは不正ではありません。ただし、加算による改善等見込総額の算定や賃金改善の実施状況に虚偽があれば、この返還措置の対象になり得ます。実績報告の内容は事実に基づいて作成してください。
試算での確認ポイント
認定通知で加算率(a)(b)を確認する
試算に入力する加算率(a)(b)は、市町村から届いた認定通知の値を使います。同じ加算率(a)(b)は『事務職員雇上費加算は加算率と月初利用子ども数で確認』の入力にも使います。
賃金改善の実施状況を年度内に記録しておく
実績報告書の作成に備え、職員ごとの賃金改善額を随時記録しておくと、加算見込額との比較がしやすくなります。
試算結果は見込みであって実績確定額ではないと理解する
試算が示す加算額は認定内容に基づく見込みです。実際の支給額は実績報告後に確定します。
認定済みの加算率(a)(b)を入力すると、処遇改善等加算を含めた試算結果を確認できます。実績報告や差額精算の要否はこの試算では判定しません。
公定価格の試算を開くよくある質問
確認、市町村への申請、算定が始まる月、実績報告の順に、関連する記事をたどれます。
加算を新たに算定し始めるときの手続きの順番を開く- 「キャリアアップ計画」は今も提出しますか。
現行の通知(区分1・2・3による整理後)で認定時に徴する書類は、別紙様式2「キャリアパス要件届出書」です。本通知の本文に「キャリアアップ計画」という名称は出てきません。旧処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲとの呼称の対応関係は、この記事の範囲では扱いません。
- 実績報告を出さないとどうなりますか。
通知は実績報告の提出を求めており、報告を怠った場合の扱いはこの記事の範囲では確認していません。提出時期や様式は所轄の市町村へ確認してください。
- 追加支払いの原資はどこから出しますか。
通知は追加支払いを求める根拠を定めるのみで、原資の調達方法までは定めていません。不足が見込まれる場合に備え、年度内に資金繰りを検討しておくことをおすすめします。
- 法人内で複数の認可保育所を運営している場合、キャリアパス要件届出書や賃金改善実績報告書は法人でまとめて提出しますか。
通知は、区分1のキャリアパス要件届出書(別紙様式2)も、区分を問わない賃金改善実績報告書(別紙様式6)も、施設・事業所の設置者・事業者が施設・事業所ごとに提出すると定めており、法人単位でまとめて提出する仕組みではありません。例外は区分2の加算額だけで、同一の設置者・事業者が運営する他施設の賃金改善に充てる場合は、認定時に「同一の事業者内における拠出見込額・受入見込額一覧表」(別紙様式4別添2)、実績報告時に施設ごとの内訳表(別紙様式6別添2)を追加提出します(前年度から区分2を継続適用し誓約書〈別紙様式5〉を周知済みの施設はこの別添2を含む様式4関連書類を省略できます)。なお、同一市町村が管轄する施設分をまとめて申請させる事務処理の簡素化はありますが、これは提出のとりまとめ方法にとどまり、単位自体は施設・事業所ごとのままです。
処遇改善等加算の実績報告を含む年次の申請・報告の時期をまとめて確認するには、加算の年次申請・年次報告カレンダーが便利です。
ほかの記事の確認事項・よくある質問の一覧
この記事が参照した一次資料
- 施設型給付費等に係る処遇改善等加算について
こ成保296、7文科初第250号(令和7年4月11日。最終改正: こ成保319、8文科初第171号、令和8年4月8日)/令和8年度当初/確認日 2026-09-17