内部留保に上限があるのではなく、超えた分に計画の作成義務がかかる
社会福祉法第55条の2は、社会福祉法人の純資産が一定の額を超えたとき、その超えた分の使い道を社会福祉充実計画に書いて所轄庁の承認を受けることを義務づけています。
純資産の額そのものに上限を定める条文ではありません。
超えた分は、既存の事業の充実か新しい事業の実施に使う計画にまとめ、評議員会と所轄庁の確認を通す流れになります。
この記事は、社会福祉法人が運営する保育所を念頭に、法人全体の財産と計画の仕組みを説明します。委託費の積立資産に限度額があるかどうかは別の問いで、『委託費の経理の問答集』が扱っています。法人に計画の作成義務があるかどうかは、法人の決算と所轄庁の確認で決まります。
計画が必要になる条件は、純資産が控除対象財産額を超えること
計画が必要になるのは、前会計年度の貸借対照表の資産の部から負債の部を引いた額が、基準日に現に行っている事業を続けるために必要な財産の額を超えるときです。
基準日は、前会計年度の末日です。
比べる2つの額は、法第55条の2第1項の第1号と第2号に定められています。
| 比べる額 | 条文の書き方 | 出どころ |
|---|---|---|
| 第1号 | 前会計年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額から負債の部に計上した額を控除して得た額 | 法第55条の2第1項第1号 |
| 第2号 | 基準日において現に行っている事業を継続するために必要な財産の額として厚生労働省令で定めるところにより算定した額 | 法第55条の2第1項第2号 |
第1号が第2号を超えたときに、計画を作り、所轄庁に提出して承認を受けなければなりません。
条文には、過去の年度で作った承認済みの計画の実施期間中は、この義務がかからないとするただし書きもあります。該当するかどうかは、法人の状況と所轄庁の案内で確かめてください。
事業継続に必要な財産は、施行規則が3つの財産の合計と定める
第2号の額は、社会福祉法施行規則の第6条の14が、前会計年度の末日に法人が持つ財産のうち、次の3つの合計と定めています。
| 号 | 財産の内容 |
|---|---|
| 第1号 | 社会福祉事業、公益事業及び収益事業の実施に必要な財産 |
| 第2号 | 第1号の財産のうち、固定資産の再取得等に必要な額に相当する財産 |
| 第3号 | 当該会計年度において、第1号の事業の実施のため最低限必要となる運転資金 |
第2項は、第1号の財産を計算するとき、貸借対照表の負債の部に計上した額のうち、第1号の財産に相当する額を控除するものとしています。
具体的な計算の手順や様式は、この記事では扱いません。
条文の言葉だけでは、自法人でどの勘定がどの財産に当たるかは決まらないため、所轄庁の案内と、法人の会計の担当者や専門家に確かめる事項です。
委託費の積立資産に限度がないことを、法人の純資産に限度がないことと読まない
委託費の経理の問答集(平成27年発出。現行性は所管の案内で要確認)は、人件費積立・修繕積立・備品等購入積立の3つの積立資産に限度額はないと示しています。これは委託費の積立の話で、法人全体の純資産が控除対象財産額を超えたときの計画の義務は、社会福祉法の別の定めで、両方が並んでかかります。
積立の可否は経理の問答集、法人全体の純資産と計画の要否は社会福祉法第55条の2と施行規則第6条の14で、それぞれ確かめます。
計画に書く内容と、事業を検討する順序
計画には、法第55条の2第3項が列挙する事項を書きます。
中心になるのは、超えた額を示す社会福祉充実残額と、その使い道です。
| 号 | 記載する事項 |
|---|---|
| 第1号 | 既存事業(充実する部分に限る)又は新規事業(社会福祉充実事業)の規模及び内容 |
| 第2号 | 社会福祉充実事業を行う区域 |
| 第3号 | 社会福祉充実事業の実施に要する費用の額(事業費) |
| 第4号 | 第1項第1号の額から第2号の額を控除した額(社会福祉充実残額) |
| 第5号 | 社会福祉充実計画の実施期間 |
| 第6号 | その他厚生労働省令で定める事項 |
事業は、第4項が定める順に検討して、行う事業を書きます。
順序は、1つ目が社会福祉事業など、2つ目が地域公益事業、3つ目がその他の公益事業です。
施行規則の第6条の16は、法人の設立の目的を踏まえ、この順にその実施を検討した結果を記載することで足りるとしています。
計画ができるまでの手続きは、意見聴取・評議員会・所轄庁の承認
計画は、作っただけでは効力を持たず、意見の聴取、評議員会の承認、所轄庁への申請の順に進めます。
条文の項の順に並べます。申請には意見聴取の証明書類と評議員会の議事録を添えるため、申請より前に済ませます。
事業費と社会福祉充実残額について、専門家の意見を聴く
法第55条の2第5項は、事業費と社会福祉充実残額について、財務に関する専門的な知識経験を有する者の意見を聴くことを求めています。施行規則の第6条の17は、この者を監査法人又は税理士法人と定めています。
地域公益事業を行う場合は、住民など関係者の意見を聴く
第6項は、地域公益事業を行う計画では、その内容と事業区域の需要について、住民その他の関係者の意見を聴くことを求めています。
評議員会の承認を受ける
第7項は、計画が評議員会の承認を受けなければならないと定めています。
所轄庁へ申請する
施行規則の第6条の13が、申請書に計画を記載した書類、第5項の者の意見を聴取したことを証する書類、評議員会の議事録などを添えて所轄庁に提出すると定めています。申請は、法第55条の2第2項により、第59条の規定による届出と同時に行います。
所轄庁は、計画が社会福祉充実残額に照らして適切か、社会福祉事業なら事業区域の需要と供給の見通しに照らして適切か、地域公益事業なら需要に照らして適切かなどの要件に合うと認めるときに、承認するものとされています(第9項)。
承認を受けた法人は、その計画に従って事業を行わなければなりません(第11項)。
自法人の状況を確かめる順序
確認は、純資産の額、控除対象財産額、両者の比較、承認済みの計画の有無の順に進めると、抜けが減ります。
前会計年度の貸借対照表で、純資産の額を確かめる
資産の部の合計から負債の部の合計を引いた額が、法第55条の2第1項第1号の額です。
控除対象財産額を、施行規則の3つの財産で整理する
事業に必要な財産、再取得等に必要な額、運転資金の3つを、法人の勘定と照らして整理します。算定の方法は、所轄庁の案内と専門家に確かめます。
第1号が第2号を超えるかを比べる
超えなければ、この条による計画の作成義務は生じない構造です。超えるなら、超えた額が社会福祉充実残額になります。
承認済みの計画があるかを確かめる
過去の年度に承認を受けた計画の実施期間中は、新たな作成・承認の義務がかからない場合があります。所轄庁に確認してください。
よくある質問
- 社会福祉法人の保育所は、内部留保をいくらまで持てますか。
社会福祉法第55条の2は、純資産に上限額を定める条文ではありません。純資産が事業継続に必要な財産の額を超えたとき、超えた分の使い道を計画にして承認を受ける義務を定めています。委託費の積立資産の限度は別の問いで、委託費の経理の問答集が扱っています。
- 社会福祉充実残額とは何ですか。
法第55条の2第3項第4号で、前会計年度の貸借対照表の純資産の額から、事業継続に必要な財産の額を引いた額と定義されています。計画には、この額と使い道を書きます。
- 計画の作成には、誰の意見が必要ですか。
事業費と社会福祉充実残額について、施行規則の第6条の17が定める監査法人又は税理士法人の意見が必要です。評議員会の承認も必要で、地域公益事業を行う場合は住民など関係者の意見も聴きます。
- 株式会社や学校法人の保育所にも当てはまりますか。
この条は社会福祉法人に向けた条文です。ほかの法人の会計や財産の扱いは、法人の種類ごとの法令と所轄庁の案内で確かめてください。
- この記事で、自法人に計画が必要かどうか分かりますか。
分かりません。この記事は条文の構造の説明で、個別の法人の要否や承認の可否を判断するものではありません。所轄庁と、法人の会計の専門家に確認してください。
確認したうえで、公定価格を試算する
確認した利用定員と、所在地、年齢別の園児数を入力します。法人の純資産や社会福祉充実計画は、試算結果に含まれません。
利用定員を入れて公定価格を試算するほかの記事の確認事項・よくある質問の一覧
この記事が参照した一次資料
- 「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」の運用等について
府子本第256号・雇児保発0903第2号(平成27年9月3日)/複数年度対象外/確認日 2026-10-15
- 社会福祉法(昭和26年法律第45号)第55条の2、社会福祉法施行規則(昭和26年厚生省令第28号)第6条の13・第6条の14・第6条の16・第6条の17
昭和26年法律第45号、昭和26年厚生省令第28号/複数年度対象外/確認日 2026-10-16