解説

保育園の職員の労災保険(パートも対象・事業主負担・請求の流れ)

保育園の職員がけがをしたときの労災保険を、労災保険法・労働基準法・労働安全衛生規則と厚生労働省のガイドブックで整理します。パートも対象であること、業務災害と通勤災害、請求書の様式、休業4日目からの給付、園が出す死傷病報告と労災かくしまで説明します。

この記事が答えること:職員がけがをしたとき、園は何をするか

労災保険は、労働者を使用する事業を適用事業とします(労災保険法第3条第1項)。

厚生労働省は、一人でも労働者を使用する事業は適用され、パートやアルバイトも雇用形態に関係なく対象になると説明しています。

保育園の職員は、常勤でもパートでも、仕事中や通勤中のけがや病気が労災保険の対象になります。

費用は、原則として事業主が負担する保険料でまかなわれます。

厚生労働省の労働保険の案内ページは、労災保険分は全額事業主負担と説明しています。

雇用保険は職員も保険料を負担しますが、労災保険には職員の負担分がありません。

この記事は、条文と厚生労働省の資料の整理です。個別のけがや病気が業務上と認められるか、給付の額や支給の可否の判断はできません。迷うときは、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確認してください。

業務災害と通勤災害:どこまでが対象か

労災保険法第7条第1項は、保険給付を業務災害、複数業務要因災害、通勤災害、二次健康診断等給付に分けています。

厚生労働省のガイドブックは、業務災害を、労働者が業務を原因として被った傷病等と説明し、業務と傷病等の間に一定の因果関係があることを「業務上」と呼んでいます。

仕事が原因のけが・病気は業務災害、住居と職場の往復中のものは通勤災害として、それぞれ別の給付の対象です。

ガイドブックが示す業務災害の3つの場合
場合ガイドブックの説明
事業場の施設内で業務をしている特段の事情がない限り業務災害と認められる。私的行為、故意、個人的な恨みによる第三者の暴行は例外
施設内にいるが業務をしていない休憩時間や就業前後の私的行為による災害は認められない。施設や設備、管理状況が原因の災害は業務災害
施設の外で業務をしている積極的な私的行為などの特段の事情がない限り認められる

通勤とは、就業に関し、住居と就業の場所の間の往復などを、合理的な経路と方法で行うことです(労災保険法第7条第2項)。

経路を逸脱したり移動を中断したりした間と、その後の移動は、原則として通勤になりません。

ただし、日常生活上必要な行為で厚生労働省令が定めるものを、やむを得ない事由で最小限度行う場合は、合理的な経路に戻った後は通勤に戻ります(同条第3項)。

「園の中でけがをしたから、必ず労災になる」とは決まらない

業務上かどうかは、けがや病気の原因と仕事との関係で判断されます。休憩中や就業前後の私的行為が原因のものは、認められない場合があります。

園で判断せず、請求書の記載で事実を正確に書き、認定は労働基準監督署に任せます。迷うときは労働基準監督署に相談します。

請求の流れ:療養と休業

労働基準法第75条第1項は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかったときは、使用者が必要な療養を行うか、必要な療養の費用を負担しなければならないと定めています。

労災保険は、この補償を保険給付として行う仕組みです。

給付の請求をするのは被災した職員本人で、園は請求書の事業主の証明欄を書き、手続を手伝う立場です。

ガイドブックが示す請求書の例(業務災害の場合)
場面請求書ガイドブックの説明
労災指定医療機関で治療を受ける様式第5号(療養補償給付の療養の給付請求書)指定医療機関を経由して、所轄の労働基準監督署長に提出する
指定でない医療機関で自費で払う様式第7号(療養の費用請求書)費用の支出が確定した日の翌日から2年で時効になる
仕事を休んで賃金が出ない様式第8号(休業補償給付の請求書)休業4日目から、給付基礎日額の60%の休業補償給付と20%の休業特別支給金が出る

休業の最初の3日間は待期期間と呼ばれ、労災保険の休業補償給付は出ません。

ガイドブックは、業務災害の場合、この3日間は事業主が労働基準法に基づいて1日につき平均賃金の60%の休業補償を行うと説明しています。

通勤災害と複数業務要因災害の場合は、事業主の補償責任についての法令上の規定はありません。

ガイドブックの記入例には、会社から証明が受けられない場合でも労災請求はできるので、最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署に相談するよう書かれています。園が証明を拒んでも、職員が請求できなくなるわけではありません。

園が行う報告:労働者死傷病報告と労災かくし

労働安全衛生規則第97条は、労働者が労働災害などで死亡または休業したとき、事業者が所轄の労働基準監督署長へ労働者死傷病報告をすると定めています。

休業が4日以上のときは遅滞なく、4日に満たないときは、1月から3月、4月から6月、7月から9月、10月から12月の各期間について、最後の月の翌月末日までに報告します。

厚生労働省は、令和7年1月1日から電子申請が原則義務になったと案内しています。

労災かくしとは、厚生労働省のQ&Aによると、労働者死傷病報告を故意に提出しないこと、または虚偽の内容を記載して提出することです。

労働安全衛生法第120条第5号は、第100条の報告をしない、または虚偽の報告をした場合に、50万円以下の罰金を定めています。

労災保険の請求と労働基準監督署への死傷病報告は別の手続です。どちらも、けがの原因を事実どおりに書きます。

「保険料が上がるから」「大ごとにしたくないから」と、健康保険で済ませない

ガイドブックは、労働災害に健康保険は使えないと説明しています。そのうえで死傷病報告を出さないと、労災かくしに当たるおそれがあります。

仕事や通勤が原因のけがは、最初の受診のときに医療機関へそう伝え、労災の様式で請求します。

請求の時効と、園で用意しておくこと

ガイドブックによると、療養の給付は現物給付のため時効は問題にならず、療養の費用と休業補償給付は、それぞれ請求の権利が生じた日の翌日から2年で時効になります。

障害補償給付は傷病が治った日の翌日から5年です。

けがの直後に請求書の置き場所と記入の担当を決めておけば、あとから時効で請求できなくなる事態を避けられます。

  1. 労災保険の加入を確かめる

    園が労働保険に加入し、保険関係が成立しているかを、労働保険番号の通知書などで確かめます。

  2. けがの直後の動きを決める

    受診先に「仕事中のけが」と伝える、園長への報告先を決める、様式第5号を渡す担当を決める、の3点を職員に周知します。

  3. 事実を記録する

    発生した日時・場所・状況を、けがの当日に記録します。請求書の災害の原因欄と、死傷病報告の発生状況に同じ内容を書きます。

  4. 休業日数を数える

    死傷病報告は休業4日以上かどうかで出し方が変わります。休業日数は休みの日も含めて数えます。

  5. 迷ったら労働基準監督署に相談する

    業務上かどうか、証明欄にどう書くかに迷うときは、判断を園だけで決めず、労働基準監督署か社会保険労務士に確認します。

よくある質問

週に数日だけ働くパートの保育士にも、労災保険は適用されますか。

適用されます。厚生労働省は、労働者であればアルバイトやパートタイマーなど雇用形態は関係ないと説明しています。

労災保険の保険料を、職員の給与から引いてよいですか。

厚生労働省の労働保険の案内ページは、労災保険分は全額事業主負担と説明しています。雇用保険料とは扱いが違うため、給与から労災保険料を引く扱いは、社会保険労務士か労働基準監督署に確認してください。

保育中に園児に噛まれたり、腰を痛めたりしたら、労災になりますか。

この記事では、保育現場の個別の例について認定の可否を示せません。業務上かどうかは、原因と仕事の関係で労働基準監督署が判断します。腰痛には、重い物を繰り返し扱う業務など、ガイドブックが示す認定の要件があります。

試算ツールで人件費の見込みを考える前に

試算ツールは、公定価格のモデル計算をします。労災保険料や、職員のけがに伴う休業中の費用は計算しません。

公定価格の試算結果を見る

試算結果は、売上や利益、給付の支給を保証するものではありません。次に知りたいこと:短時間勤務の職員の社会保険・雇用保険の加入要件、職員数別の安全衛生体制、就業規則の作成と届出。

ほかの記事の確認事項・よくある質問の一覧

  • 試算前の確認事項の一覧

    この記事の「つまずきやすい確認事項」2件を、ほかの記事の確認事項と対処とあわせて見られます。

この記事が参照した一次資料

ほかの解説

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