解説

保育園のカスタマーハラスメント対策(令和8年10月義務化)

令和8年10月1日から義務になった、顧客等によるハラスメント(カスタマーハラスメント)への事業主の措置を、労働施策総合推進法第33条と厚生労働省のリーフレットで整理します。保育園の保護者が当たり得る範囲、苦情との区別、方針の明確化・相談体制・対処の方針など講ずべき10項目を扱います。

この記事が答えること:保護者への対応で、園は何を整える義務があるか

労働施策総合推進法第33条は、顧客等の言動で労働者の就業環境が害されないよう、事業主に必要な措置を講じることを義務づけています。

厚生労働省のリーフレットによると、この義務は令和8年10月1日からです。

保育園は、保護者などの言動から職員を守るために、相談の体制や対処の方針を整えます。

この記事は、条文と厚生労働省のリーフレットの整理です。個別の保護者の言動がカスタマーハラスメントに当たるかの判断や、園の規程の法令適合の判断はできません。迷うときは、都道府県労働局や社会保険労務士に確認してください。

保護者は「顧客等」に当たり得る。ただし苦情の全てが対象ではない

条文は、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の事業に関係を有する者を「顧客等」としています。

厚生労働省のリーフレットは、その例に「施設・サービスの利用者及びその家族」を挙げています。

保育園に通う子どもの保護者は、この例に当たり得ます。

対象になるのは、次の3つの要素を全て満たすものです。

顧客等の言動であること、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えていること、労働者の就業環境が害されることです。

顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに当たるわけではないと、リーフレットは明記しています。

社会通念上許容される範囲を超える言動の典型例(厚生労働省のリーフレット)
区分典型例
言動の内容要求に理由がない、契約で想定したサービスを著しく超える、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償要求
手段や態様暴行や傷害、脅迫・中傷・侮辱・暴言、威圧的な言動、継続的で執拗な言動、居座りなど

正当な要望や苦情まで、一律に断らない

リーフレットは、言動の内容と手段や態様の一方だけが許容範囲を超える場合も該当し得るとし、障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要とする意思を表明すること自体は当たらないと示しています。保護者の正当な苦情や相談を受け止める窓口は、職員を守る措置とは別に用意しておくと整理しやすくなります。

苦情の窓口の対応と、職員を守る対処の方針を、別々に定めて使い分ける。

事業主が講ずべき措置は10項目

リーフレットは、事業主が講ずべき措置を、5つの区分に分けた10項目で示しています。

方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、抑止のための措置、そのほか併せて講ずべき措置の5区分です。

講ずべき10項目(厚生労働省のリーフレットの整理)
区分項目
方針等の明確化及びその周知・啓発①毅然と対応し労働者を保護する方針を明確にして周知する ②内容と、あらかじめ定めた対処を周知する
相談体制の整備③相談窓口を定めて周知する ④窓口担当者が適切に対応できるようにする
事後の迅速かつ適切な対応⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する ⑥被害者への配慮の措置を行う ⑦再発防止の措置を講ずる
対応の実効性を確保するための抑止の措置⑧特に悪質なものへの対処の方針を定めて周知し、対処できる体制を整える
そのほか併せて講ずべき措置⑨相談者などのプライバシーを守る ⑩相談したことを理由とする不利益な取扱いをされない旨を定めて周知する

リーフレットは、あらかじめ定める対処の例として、管理監督者にその場の対応の方針を仰ぐこと、可能な限り労働者を1人で対応させないこと、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報すること、本部などへ情報を共有することを挙げています。

これは例であり、園の規模や体制に応じて定めます。

条文が直接定める、相談した職員を守る規定と協力の努力義務

第33条第2項は、職員が相談をしたこと、または事業主の対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと定めています。

相談した職員への不利益な取扱いは、条文で禁じられています。

第33条第3項は、他の事業主から措置の実施に必要な協力を求められたときに、応じるよう努める義務を定めています。

第34条第2項は、職員がこの問題への関心と理解を深め、他の事業主の労働者への言動に注意を払えるよう、研修などの配慮をすることを事業主の努力義務としています。

これらは第1項の義務とは別に、努めるものとして置かれています。

園で確かめる順番

方針、窓口、対処の方針、記録、周知の5点を、順に確かめます。

  1. 方針を文書にする

    職員を保護する方針と、保護者の正当な苦情や要望には誠実に対応する方針を、あわせて書き出します。

  2. 相談窓口を決める

    職員が相談できる窓口と担当者を決め、担当者が対応できるようにします。

  3. 対処の方針を決める

    1人で対応させない、管理監督者にその場の対応の方針の指示を仰ぐ、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報するなどの流れを決めます。

  4. 事後の確認の流れを決める

    事実の確認、被害を受けた職員への配慮、再発防止の措置の進め方を決めます。記録の取り方は、園の運用として決めます。

  5. 職員に周知する

    方針、窓口、不利益取扱いをしない旨、相談者のプライバシーを守る旨を、職員に周知します。

よくある質問

保護者からの強い苦情は、全てカスタマーハラスメントですか。

リーフレットは、顧客等からの苦情の全てが該当するわけではないとしています。言動の内容と、手段や態様の両方を見て、社会通念上許容される範囲を超えるかを判断します。個別の言動は、労働局などに確認してください。

保護者の苦情を受ける窓口の定めと、同じ内容でよいですか。

目的が異なります。苦情の窓口は保護者の声を受け止める仕組みで、この措置は職員の就業環境を守る仕組みです。苦情の窓口の定めは苦情への対応・窓口・記録で整理しています。

この記事で、自園の対応が義務を満たしているか判断できますか。

個別の判断はできません。園の体制や事案によって結論が変わるため、都道府県労働局や社会保険労務士に確認してください。

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次に知りたいこと:不審者の侵入への対策、職員による虐待の禁止と秘密の保持、就業規則の作成・届出義務。

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